
門限きびし!3バカ焼肉屋突撃事件
高校1年生の冬。
実家はとても厳しく、高校生で門限なんてものが存在してました。特にお家柄が良いわけでもなく、心配して設定してるわけでは有りません。
親からすれば、今のこいつは野放しにしとくと世間様に迷惑を掛けるから、出来得る限りせがれの行動を把握するという、保護観察に近い理由からでした。
しかしまあ、今思えば当然の動機です。ある日、というか度々門限を破っていた私。仏の顔も3度までということで、締め出しを食らう羽目に。恐ろしいことに家の鍵が変わってたんですよね。まったく、徹底しておられる。
さて、冬だしさみーしどうしたもんかと。あまり深く考えずにバイト先の先輩の家に転がり込むことに。当時焼肉屋で週6バイトをしていたので所得は多少ある。暖かく眠れる所があれば他は大した問題では無いわけで。
こうなると、普段に輪をかけて学校にいかなくなる。多分10日くらいいかなかったんじゃないかな?暇なので昼間もバイト入ってたりしました。店長に
「おまえ学校は?」
とか言われるけど、「有給取りました」とかわけのわからない事をほざきながら仕事に入ってました。人工の足りない当時、時代も時代なわけでまあ、普通に就労するわけです。
で、深夜までバイト先に入り浸って、遊んで寝てまたバイトして。こんな事を続けてたら、学校では話題になるわけです。聞いた話ですが、失踪事件になったようです。担任がウチの保護者に確認しても「知りません」という呪文を繰り返すばかりで頭をかかえたそうです(笑
当然、友達にも「あいつ家帰ってないらしいぞ」という情報が入るわけで。
そんなこんなである日の深夜。バイト先も閉店後。いつものようにバックヤードでトランプなんてしていると。パートのおばちゃんが
「Chagamiくん、お客さん見えてるよ」
はい?お客さん?ついに国家が動き出したかなと思い外にでてみると、そこにいたのは高校のクラスメイト3人。色ボケバカのダイちゃん、お人好しバカのガニ、喫煙バカのハニー。彼らにはバイト先なんて教えてないのによくここがわかったもんだ。
しかも全員、調布までチャリ。ダイちゃんは国立、ガニは石神井、ハニーはすぐそこだけど。
今までならば、勘弁してくれよと思ったかもしれない。でも今回は気づかぬところで心労もあったのか、実に嬉しかった。
高校生にとって「門限が有る」ってのはなんか恥ずかしくて言えたもんじゃなかったけど、この時はプライドも何も気にせず、全ての経緯を話した。
するとどうだろう。「みんなでもう一度謝りにいこう」というのだ。半ば勢いに押されて全員でChagami家へ。本人がピンポンしたら出てくれないだろうからという理由で、呼び鈴を押すのはダイちゃんの役目に。この3人は家にも何度か遊びに来てるので我が両親とも顔見知りだ。
ピンポーン。もちろん何かを察してはいるようで、小窓から顔を出す母ちゃん。流石に無下にはできないようだ。これで交渉の場は確保された。良い流れだ!
開口一番、ダイちゃん。
「ダンナ(当時のあだ名)を家に帰してやってください!お願いします!」
いや、それ囚われた先で言う言葉だよと思いましたが熱意がすごい。すぐに他の二人も「お願いします!」と頭を下げる。
自分のためにここまでしてくれる人間がまわりにいるなんて全く気づいていなかった。ただ涙を浮かべて見ていることしか出来なかった記憶がある。
30分程度の問答で、ついに母ちゃんも根負け。Chagamiの帰宅への扉が開かれた。仕事を果たしたように彼らは一言添えて帰路につく。
「明日学校来いよ!」
「おう。。」
約10日ぶりに帰宅し、我が家では取り調べが始まる。過去のことまで持ち出してくる母ちゃんの説教スタイルがあまり好きではなかった。いつもは適当に聞き流していた。
でも今日は違う。仲間がなりふり構わず助けてくれた。無駄に出来ようはずもない。はじめて親の説教を受け止めた。腹落ちするまで話し合って、親の考えの根本を理解した。そして、しっかり和解した。話の締めに母ちゃんは言う。
「おまえたいなモンに良い友だちがいるんだね。大事にしなよ」
「おう。。」
そんなのは言われなくても自分で気づくほど、衝撃的だった。その日押しかけた3人のウチ、ダイちゃんについては、実はもともと友達なんて思ってなかったんです。
口を開けば女の話。やれF組に◯◯ちゃん見に行こうとか、告白しにいくから一緒にきてくれとか。薄っぺらい面倒な男だと思ってた。
それがどうだろう。今夜のダイちゃんは。この突破劇を立案したのも彼だという。彼の長所を見ようともしなかった自分に嫌気が差すほど改心した。
以後もダイちゃんのスタンスは変わらないのだが、僕自身は彼に対する見方が180度かわったわけで、その後の付き合いは楽しめた。ダイちゃんはそんな性格なのでまわりからは悪く言われることもあるし、僕自身、「なんであんなのとつるんでるの?」なんて言われるけど、全然気にならなかった。
大事なものは大事だと、中学時代に気付いたから、ダサいプライドに駆らることもなく「良いやつだからだよ」と、普通に言えた。
人の短所は目に付きやすくて沢山見えてしまうけど、長所1つみつければ短所なんて全部気にならなくなる。事もある。
人とは充分な対話がなければ何も根本を解決することはできない。
そんなことに気付いた事件でした。